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ICTと経営

ICTと言うのは、Information and Communication Technology(情報通信技術)の略でいわゆるIT(情報技術)とほぼ同じ意味です。ただ、情報はやりとりしてこそ価値が出てくるので、Communicationという要素が強調されている方が適切と考えて、ここではICTという言葉を使っています。

 

さて、このICTですが、昨今は企業経営の上でも重要だとされています。しかし、いまだに多くの企業で上手く活用されていませんし、活用しようともしていない企業も多くあります。そこで、中小企業のICT活用やその支援に関するセミナーなどの冒頭では、データをもとにして、いかに経営においてICT活用が重要か、どれだけ生産性を向上できるか、といった話がよくされます。データの出典元は、例えば、2018年版中小企業白書だとか、情報通信白書平成30年版だとか、IT人材白書2019だとか。

 

ただ、正直なところ、そんな話はもういらないのではないかと思います。

 

いまどき、生活の中でICTに触れない人なんていませんよね。年配の方でもスマートフォンを使っていて、地図アプリを使っている人も多いですし、駅の自動改札で切符を通す人なんて少ないですし、全国の観光地ではキャッシュレス決済が普及しています。国内だけでなく、世界中すでにICTだらけです。そんな世界の潮流にビジネスが大きく影響されるのは当たり前のことで、経営者はそれを素直に受け入れた方がいいです。自動車がこれだけ普及した世の中では、特別な理由がない限り牛や馬を使ってモノを運ばないのと同じように、ICTがこれだけ普及した世の中で、敢えて前近代的な方法に頼ることはありません。抗生物質が存在する時代になっても、あらゆる病気でヒルに血を吸わせる治療法を続けるようなものです。経営の中でICTを活用することが重要なのは、もはや自明の理であり、議論の余地がありません。

 

一方で、ICTはとにかく買ってくればいいというものでもありません。それも自動車と同じで、自動車をヒトやモノを移動させる手段のひとつとして捉えるならば、他にも電車や自転車、宅配サービスなどの手段があります。経営におけるICTも、経営課題を解決する手段のひとつであって、他の選択肢との兼ね合いの中で検討するものです(所有自体に価値がある場合もありますが)。例えば、忙しくて仕事が回らないときに、人を雇うのか、作業の進め方を見直すのか、取ってくる仕事を調整するのか、ICTを導入して省力化・自動化を試みるのか、それとも複数の手段を組み合わせるのか。経営におけるいつもの考え方だと思います。

 

そして、これはデータも示しますが、業務見直しをせずにICTを導入するよりも、業務見直しを伴って導入する方が、パフォーマンスが良いケースが多いです。考えてみれば(みるまでもなく?)当然ですが。

 

業務見直しの実施有無別に見た、他の生産性向上策により労働生産性が向上した企業の割合
2018年版「中小企業白書・小規模企業白書」概要より

 

業務には、前後の作業はもちろん、他にも様々な要素が絡み合っていることが多いです。そのような中で、一部の業務や作業だけポンと変えてみたところで、あまり上手く機能しないでしょう(変える部分が、もともと他から分離独立していれば、上手くいくこともあります)。例えば、蕎麦屋で蕎麦打ち職人を増やしたとしても、それだけで大量の注文をさばけるようになるとは限りません。注文を二人の職人に上手く振り分けたり、複数の注文分をまとめて打てるようにしたり、注文を蕎麦打ち職人に伝える際の工夫が必要かもしれません。ICT導入でも同じように、導入したシステムが活きるような業務の進め方に変える必要があります。

 

結局、ICTというのは、情報を扱い、コミュニケーションするのを上手くやるための技術なので、普通に考えて仕事に取り入れたら便利になるものです。やり方によっては、ビジネスを大きく変化・発展させる可能性もあります。敢えて使わない手はない。でも、目的もなく取り入れるものではないですし、何も考えずに取り入れさえすればHappyになるものでもないです。

 

ICTと経営というのは、そういう当たり前の関係にあるものなので、自分の事業には縁のないものと思ったり、諦めたりしないことはもちろん、変に斜に構えたりもせず、自然体で取り組んでもらえたらと思います。